失敗に学ぶ

ネクストビジョン ありまです。

大学で工学部の機械系を専攻した人で、設計をやる人だったら必ず知っているといわれるくらい、有名な代表的な3大事故というものがあるそうです。その世界3大事故のおかげで人類の技術の進歩に大きく貢献し、その失敗のおかげで社会は大きく発展したのですね。今回はそんな失敗に学ぶお話しです。

○その1つ目が「タコマの吊り橋」です。
「タコマの吊り橋」とは1940年にアメリカのワシントン州のタコマ市にかけられた吊り橋のことです。

当時のアメリカは、長引く不況の影響から安価に長い橋をつくれる吊り橋という新しい技術に大きな期待が寄せられていたようです。

ところが、そんなタコマの吊り橋は完成から僅か4ヶ月後、秒速たったの19メートルの横風によってあっけなく崩壊してしまうのです。

タコマの吊り橋が崩壊する様子は当時偶然にも動画で残されています。風による激しいねじれ振動でもろくも崩れていく衝撃的な映像になっています。

動画はこちらで見ることができます。⇒ http://www.nicozon.net/watch/sm423833

その映像情報を解析することによって、当時の人類にとってまだ未知だった「自動震動」という現象によるものだったことが分かったのだそうです。自動震動とは、旗が僅かな風になびかれてパタパタと大きく動いたり、水を出している水道管がガタガタと揺れ始めたり身近にある現象なのです。

タコマの吊り橋による事故のおかげで、自動震動というメカニズムが明らかにされ、その知識が現在の吊り橋技術の飛躍的進歩に大きく繋がったのだそうです。ちなみに、日本の明石大橋もこの反省が十分考慮されて世界最長の橋として立派に建築されているのですね。

○世界3大事故の2つ目は、「デハビランド・コメット機」による事故です。
1952年、イギリス政府の主導で就航し、時代の花形として脚光を浴びた世界初のジェット旅客機が「デハビランド・コメット機」です。

時速800kmという当時では超高速の速度と低振動、低騒音などの長所を備えていたため、イギリスの航空会社BOACが正式採用すると世界で続々と採用され、計47機が活躍していました。

ところが、就航からわずか2年後の1954年、イタリアでのフライトの途中で2機の飛行機が相次いで空中爆発を起こしました。当時は大変ショッキングな出来事だったようで、当時のイギリスの首相だったチャーチルは「イングランド銀行の金庫が空になっても事故原因を徹底究明せよ」と厳命しイギリスの威信をかけた調査がなされたのだとか。

その結果、当時まだ未知のものだった「金属疲労」というメカニズムが判ったのです。針金を切るのに、ペンチを使わなくても、繰り返し同じところを何度も何度もクネクネ繰り返し曲げていると次第に、「ポキッ」って折れることはないですか?それが疲労破壊というものです。

高空では機体の内外の圧力差が激しく、地上とは比較にならない荷重が飛行機の胴体に加わります。デハビランド社はこの耐圧試験の結果による寿命を実際の10倍以上に見積るというミスをしてしまったのが原因でした。

この高空での金属疲労問題をいち早く知識化して航空機開発に瞬く間に世界からの信頼を集めた企業がありました。それがアメリカのボーイング社です。私はこの話を実際にシアトルにあるボーイング社に見学して聞きました。失敗を次に繋いだ成功企業の代表例だと思います。

○世界3大事故の3つ目は、「リバティー船」による事故です。

「リバティー船」とは第2次世界大戦初期に戦略物資輸送船としてアメリカが大量に建造した全溶接構造の戦時標準船です。その頃の船は鉄板を鋲打ちで建造していたのですが、戦時下とあって大量に輸送船を建造するため全溶接で建造したのです。これまでで約5000隻が建造されたそうです。

ところが、1942~46年にかけて次から次へと不思議な事故を起こします。なんらかの破壊事故を起こし、全体の4分の1にあたる1200隻がなんらかの形で破壊され、そのうちの230隻は沈没もしくは使用不能の状態に陥ってしまうという事故が連発するのです。事故は北洋でしかも寒冷期に集中していました。

そこでアメリカは大規模な調査を行って原因究明をしたところ、温度が低くなると金属そのものがもろくなる「低温脆性(ていおんぜいせい)破壊」が主原因とわかったのです。

「鉄」とは伸び縮みするしなやかさがあるから強いのです。日本刀がまさにそうですよね。固いだけの鋼(はがね)ではポキっと折れてしまいます。それが、温度が下がると伸び縮みできなくなる。なのでもろくなる。これが「低温脆性破壊」なのです。

先の事故の背景にあった「自動震動」「金属疲労」「脆性破壊」は現在では機械設計や生産工学などを学ぶ上で不可欠な知識となっているそうです。まさに人類の失敗を次に活かしたケースだと思います。

このとき、失敗を発展に変えることができたポイントは、相次ぐ事故を目の当たりにしたとき、「吊り橋は危険だからやめよう」とか、「圧力差がある飛行は危険だからやめよう」とか「溶接船は危険だからやめよう」と、私たち人類はその失敗から逃げず、その技術を封印する方向に向かわなかったことです。

その失敗を真正面から受け止めて、そこに秘められていた発展の種を技術者たちがうまく育てたからこそ歩めた、まさに成功の糧としたのです。

私たちも身近なところであっちこっちと失敗をしているものじゃないかと思います。ですが、あなたの会社では、「失敗」は「諌(いさ)められる」傾向があるのではないでしょうか?

もちろん失敗はない方がいいに決まっていますが、些細な失敗でも、それをごまかしたり、何事もないようにしていたのでは何の進歩にもなりませんね。むしろ失敗をすることは成長のために良いことだと捉え、大いに反省し、次の成長に繋げる努力をしなければならないと思います。

失敗を恐れず、失敗してもそれから逃げないこと。失敗を封印しないこと。これこそが会社を、人類を発展させることに繋がる唯一の手段のように思います。

「反省するときは、死ぬほどの気持ちで反省する。
 『しまったな』くらいの軽い気持ちでは、同じ失敗を繰り返す」 ―― 渡邉美樹 ワタミ社長 ――

※一部、講談社「失敗学のすすめ」畑村洋太郎著を参考にさせていただきました。
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この記事を書いた人

有馬 猛夫(ありま たけお)
ネクストビジョングループ 代表 IT系の専門学校で11年間教壇に立った経験を生かし、1999年ネクストビジョン設立。広島発ITベンチャー企業として製品開発・サービスの提供を行う。2006年広島市企業診断優良企業賞受賞。2008年マイクロソフト社と広島市によるITベンチャー支援企業として中国地方で初の選定企業となる。
・株式会社ネクストビジョン 代表取締役社長
・株式会社マイクロギア 代表取締役会長
・アナリックス株式会社 代表取締役会長
・一般社団法人ヘルスケアマネジメント協会 理事

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